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イスタンブール(4)リビー先生と子供の瞳に見えたもの

小さな肩に重そうな靴磨きの道具を担ぎ、「磨いてほしい靴はないですか?」と、たたずむ少年のひたむきな顔。
「チューリップはいかがですか?」、「窓ガラスを拭きますよ」と信号待ちの車に寄ってくる子供たちの愛らしい顔。
ホメイニ体制になったため、先祖代々の広大な農地を没収され、イランから逃げて来た家族の事情をあどけない顔をして、切々と訴える息子のクラスメートの真剣な顔。内戦がひどいユーゴからイスタンブールに父親の転勤で来た少女の、内戦前の美しい裏山の景色を、懐かしそうに語ってくれたつぶらな瞳。
帰国後、無駄遣いしたり、怠惰な生活をしている小学生の息子達を見かねた夫が、「トルコに行って君たちも靴磨きをしてみたら?、きっとお金のありがたさや生きる事の大変さがわかるから」と言うと、急に神妙な顔をした息子達の顔を思い出します。

ハロウィンの仮装  ハロウィンの仮装

大学生になった息子達は、二人とも休みになるとそれぞれ大きなバックパック一つ担いで、まだ彼らの見ぬ国々や特にアジアの国々を一ヶ月ぐらいかけてじっくり回っていました。
「お、か、え、り」。心配と安堵の入り混じった気持ちで、旅から帰った息子を迎える私に、
「いいな~その言葉!その言葉があるから、僕はここに帰ってこれるんだな~」と、一段と頼もしくなった顔から、いつもの見慣れた笑顔がこぼれていました。
「世界中回って、色々な子供に会ったけど、巧妙な嘘をつく大人と違って、子供達が観光客につく嘘はみんな可愛くて憎めないんだよな」 と、息子の真っ黒に日に焼けた顔から白い歯が光っていました。
子供の純粋なつぶらな瞳に、未来を感じます。
その希望の瞳をつぶさず育てるのが大人の使命だと思います。トルコ、イスタンブールでの生活は、広い地球上には自分達と同じ境遇の子供達ばかりでないことを、幼かった息子達に気付かせてくれました。

子供とのかかわりの中で様々な人と出会いましたが、その中で特に忘れられない人がいます。
その人は今頃、祖国であるアメリカに帰って、教師という仕事を続けているのでしょうか。
または未開の地で、読み書きできない子供達のために惜しみなく、尽くしているのでしょうか。

リビー先生と子供達  リビー先生と子供達

「みんな、15分あげるから好きなものを買ってきていいぞ!」。
リビー先生の大きな声が辺りに響きわたりました。
その人(息子のクラス担任リビー先生)は、校長に特別に許可をもらい社会見学と称して、息子含め17名いるインターナショナルスクールの生徒達を引きつれ、エジプシャンバザールというイスタンブールで有名な香辛料や日用雑貨を売るアーケードの入り口に立っていました。
私はクラスマザーとして、二人のアメリカ人、イギリス人の母親仲間と同行しました。

エジプシャンバザールは大人の腰くらいあろうかと思われる茶色の大きなカメに、何百種類の香辛料が山のように積まれ、軒には海綿が所狭しと天井からぶる下がり、まるで「アラジンと魔法のランプ」の世界に入り込んだような、いかにも中東という香りのする場所でした。

ブルーモスク 旧市街地にあるブルーモスク

何分ぐらい経ったでしょうか。
イミテーションのネックレスを、習いたてのトルコ語を使い、「安くかった」と自慢している生徒や、妹のためと言いながら思案の末、千円くらいで買った時計を大事そうにかかえた生徒。皆、手に手に土産を持って楽しげに戻ってきました。
生徒達はイラン、ユーゴ、イスラエル、アメリカ、イギリス、オランダ、フランス、スイス、韓国と様々な国から集まった国際色豊かな子供達です。
気が付けば、旧市街地の中心広場をぬけ、ブルーモスク、アヤソフィアの広場に続く長い石畳の道を行く私達の近くを、トルコの少年三人が、親しげな顔で着いてくるではありませんか。その三人は、リビー先生から旧市街地の一日観光案内をしてくれるように頼まれいたのです。
先生はイスタンブール旅行中、三人と知り合いになり、読み書きを教えたり、自分のいらなくなった服をあげ、面倒を見ていたのです。
そういえば三人の中でちょっぴり背の高いムスタハは、リビー先生のプレゼントらしい、ちょっと大きなジャケットを着ていました。

息子達と同じ年頃で経済的な理由で働かざるを得なくなった三人と、何不自由なく育っているインターナショナルスクールの子供たちがどう仲良くなって行くのか、いけるのか、私は遠くから見守ることにしました。子供達の仲良くなることの早かったこと!
初めはもじもじと、時には冷たい目つきで相手を観察していたインターナショナルスクールの子供達も、リビー先生の三人に対する接し方、三人の明るく誠実な態度に、いつの間にか自然と打ち解けあっていたのです。

観光のあと、彼らの案内してくれたトルコ家庭料理のレストランの味が、どのりっぱなホテルで食べたものより、妙に温かく、おいしく感じたのを今でもよく覚えています。

各種ドルマ       イチ・ピラフ

各種ドルマ(トマトなどの中に味付けご飯を詰めたもの)    ローストチキンとイチ・ピラフ(飾りピラフ)

外に出ると雨が降っていました。
三人は「もうここでいいから」と、私達が言うのも聞かず、傘もささずにバス停まで送ってくれました。
インターナショナルの生徒とトルコの境遇の違う三人。
子供達は子供達なりに曇りのない眼で、お互いを理解しようとしてました。
さ、よ、う、な、ら!
三人は降りしきる雨の中、バスに乗った私達を追いかけ、いつまでもいつまでも手を振ってくれました。
映画のワンシーンを見ているような瞬間に、私もそしてインターナショナルスクールの子供達も、いつまでも遠く消え行く三人に、手を振っていました。

翌日息子は学校から帰るなり、「世界中を回りながら、困っている子供のために何かしてあげたい。そう思ってインターナショナルスクールの教師の道を選んだだってさ」と、リビー先生から聞いたと言う話を私に誇らしげに話してくれました。
「机に向かう勉強だけが勉強でなく、世界中の様々な人々を見てみろよ。きっと君達の未来は自分の手で開けるよ。」リビー先生は、そう子供達に教えてくれたのだと私は思っています。

きのこ狩り きのこ狩り

二人の息子は、一人は日本の画一的教育に不満を持ち、不登校になった時もありました。
しかしアメリカ留学中に、「宇宙のあまたある星の中の、地球という星に生まれ、地球のあまたある国々の中の、日本という国に生まれ、あまたある県の中の千葉県に生まれ、その中の松戸の今村家の一人と生まれた事に感謝しています。生んでくれてありがとう」。と、長い手紙を私達夫婦に送ってくれました。
又一人は、世界中観光して世界の人々が気軽に日本に来れるようになったらどんなに良いだろうと夢を語っていました。(その次男が地方都市の活性化に力を注ぐような方向に進んで行こうとは思いませんでしたが)。
どんなことでも楽しさに変え、情熱を持ってチャレンジするのが、そしてそれを家族で応援するのが我が家らしさということでしょうか。

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